近年では脱炭素社会の実現に向けて太陽光発電の導入が加速しており、自家消費型太陽光発電の設置が注目を集めています。こうした自家消費型太陽光発電を導入する際には、さまざまな手続きや設備が必要です。
さらに、工場をはじめとする高圧施設への太陽光発電の設置には、さまざまなメリット・デメリットがあります。それぞれを把握したうえで導入を検討しましょう。
この記事では、高圧施設における自家消費型太陽光発電の電力申請の流れや、自家消費接続方法について詳しく解説します。高圧施設に太陽光発電を設置するメリットとデメリットについても紹介しますので、導入を検討している方はぜひ参考にしてみてください。
自家消費型太陽光発電には「完全自家消費型(非FIT)」と「余剰売電型(FIT)」の2種類があり、それぞれ手続きが異なります。申請の際は、どちらの方式を導入するか明確にしておきましょう。
さらに電圧の高低によっても手続きの内容に違いがありますが、たとえばキュービクルと呼ばれる高圧受電設備が付いている場合は、高圧での取り扱いになります。ここでは、それぞれの電力申請の流れと手続きなどについて解説します。
自家消費型太陽光発電における基本的な流れについて、以下にわかりやすくフロー化しました。
事業計画・事業者選定 まずは発電設備導入の目的を明確にし、具体的な事業計画を練ります。事業計画が定まれば、太陽光発電に対応している事業者を選定のうえ問い合わせましょう。なかには売電型専門の事業者も存在するため、自家消費型に対応している事業者であるか確認が必要です。
現地調査 事業者による現地調査が行われ、太陽光発電設備の設置可能状況や配線の取り回しについて確認が入ります。
見積もり発行 現地調査の結果をもとに、事業者によって見積もりが発行されます。費用内訳などを細かくチェックしましょう。また、複数業者から合い見積もりを取ることも有用です。
契約・工事 契約締結後、太陽光発電設備の設置工事が開始します。
引き渡し 工事の完了後、事業者や施工者が最終確認を実施します。問題がなければ設備の引き渡しが行われ、太陽光発電の利用開始となります。
完全自家消費型の場合は、発電した電力をすべて自家消費するため、上記の手順のみで問題ありません。
余剰売電型の場合は、発電した電力のうち自家消費分を除いた余剰分を電力会社に売電するため、まずは国の事業計画認定通知を取得する必要があります。
事業計画認定は固定価格買取制度(FIT)を利用するための手続きで、取得までに3〜4か月程度の時間が必要です。完全自家消費型に比べて手続きに時間がかかるため注意しましょう。
次に、電力会社へ事前相談を行い、連系制限の有無などについて検討しなければなりません。連系制限とは、電力系統の空き容量不足などによって設備強化が必要となるケースを指し、申請を行う前にこれらの確認を行うことが大切です。
次に、電力会社へ接続検討(電力申請)の申し込みを行います。電力会社は技術的観点から接続の可否を判断し、可能であれば必要経費を算定します。接続検討は余剰売電型の場合必ず行うべき工程ですが、完全自家消費型では省略可能となっています。
一般的には、この段階で、系統連系に関する工事概要が明らかになることが多いです。系統連系とは、電力会社の電力系統へ発電設備を接続することを指し、太陽光発電によって作り出した電力を電力会社へ販売する際に必要な工程となります。
電圧では、50kW未満を「低圧」、50~2,000kWを「高圧」と区分します。低圧の場合は電力会社への事前相談の必要がありません。
ただし、設備容量が50kW未満であっても既設の建物にキュービクルが付いている場合は「高圧」での扱いとなります。キュービクルとは高圧受電設備のことで、高圧の電力を安全に取り扱うための設備です。高圧での取り扱いが必要になる場合は、電力会社へ事前相談しなければなりません。
電力申請に要する期間は、完全自家消費型(非FIT)の場合は3か月ほど、余剰売電型(FIT)の場合は10か月ほどが目安となります。
高圧施設における太陽光発電自家消費接続方法は、大きく分けると4つあります。
太陽光発電とキュービクルを接続して降圧(こうあつ)する 逆潮流の発生を防止するためにRPRを設置する 電力の需給バランスを保つためにパワーコンディショナを設置する 地絡事故を防止するための設備を設置する
ここでは、それぞれの太陽光発電自家消費接続方法について解説します。
高圧施設で自家消費型太陽光発電を導入する場合は、太陽光発電で発電した電気をキュービクルに接続し、降圧(こうあつ)する必要があります。
降圧とは、高い電圧を低い電圧に変換することです。高圧契約を行っている施設では、電力会社から高圧の電気が供給されているため、キュービクルを用いて安全に使用できる電圧まで降圧しています。
太陽光発電システムで発電した電気も同様で、キュービクルで降圧処理を行うことにより施設内で安全に利用できるようになります。したがって、キュービクルの接続は極めて重要です。
電力会社から電力使用者のもとへ電気が流れていくことを「順潮流」といいます。一方、太陽光発電設備側から電力会社へ電力が流れることを「逆潮流」と呼びます。売電を目的とした逆潮流であれば問題ありませんが、思わぬ逆潮流の発生を防止するためには、RPR(逆電力継電器)を設置しなければなりません。
自家消費型太陽光発電では、発電した電気を自家消費することが基本です。しかし、発電量が消費量を上回った場合、余剰電力が電力系統に逆流する可能性があります。これを「バンク逆潮流」といいます。
バンク逆潮流が発生すると、電力会社の設備に悪影響を及ぼすだけでなく、大規模な停電を引き起こすリスクがあるので注意しなければなりません。したがって、自家消費型太陽光発電を導入する際は、逆潮流防止用の「RPR(逆電力継電器)」の設置が必須となります。
RPRは、逆潮流を検知すると即座に太陽光発電システムを停止させる機能を持ちます。大きなトラブルを未然に防ぐためにも、RPRの設置は重要になります。
太陽光発電システムには、発電量と消費量の需給バランスを調整するための「パワーコンディショナ」が必要です。
パワーコンディショナは、太陽光パネルで発電したDC(直流)電力をAC(交流)電力に変換する役割を持っています。さらに先進的な製品には、負荷追従制御機能が搭載されており、消費電力に合わせて発電量を自動調整することが可能です。
パワーコンディショナは発電量と消費量の需給バランスを保ってくれるだけでなく、安定した電力供給を実現してくれます。とくに負荷追従制御機能を持つ製品を導入することで、逆潮流のリスクを最小限に抑えつつ、効率的な自家消費が可能です。
パワーコンディショナは種類が豊富なので、太陽光発電システムの規模や目的に合わせて最適なものを選びましょう。
太陽光発電システムでは、地絡事故と呼ばれる感電や火災のリスクがあります。地絡事故は、太陽光パネルや配線からの漏電が原因で発生します。これを防ぐためには、高圧施設での自家消費型太陽光発電に特定の設備を設置しなければなりません。
まずは電気使用量を監視する「マルチメーター」です。次に漏電を検知し、回路を保護する「OVGR(地絡過電圧継電器)」や「ゼロフェーズ電流検出装置(ZPD)」、そして停電時の予備電源となる「蓄電池」を設置しましょう。
これらの設備を適切に導入することで、地絡事故のリスクを最小限に抑えることが可能です。安全な太陽光発電の運用を行うためには重要なポイントになるので、それぞれの設備の設置を検討しておきましょう。
高圧施設での自家消費型太陽光発電の導入は、低圧施設に比べて技術的かつ複雑な部分が多くあります。とくに太陽光発電とキュービクルの接続には、高度な専門知識と経験が求められるので注意が必要です。
高圧施設に太陽光発電を導入する際は、信頼と実績のある業者に依頼しましょう。たとえば、第一種電気工事士の有資格者が在籍しているところ、高圧施設への太陽光発電導入の実績があるところ、キュービクルの改造工事に対応できるところが望ましいです。
実績のある業者に依頼することで、スムーズな導入と安全な運用を期待できます。とくにキュービクルの改造工事ができる業者であれば、新規のキュービクル設置が不要となり、コストを大幅に削減できる可能性があります。
高圧施設での太陽光発電導入を検討する際は、業者選びにも十分に注意を払いましょう。価格を重視してしまうと満足いく結果が得られず、再び依頼しなければならない可能性もあります。無駄な手間とコストをかけないためにも、業者は信頼できるところを選ぶべきです。
高圧施設への太陽光発電の導入は、低圧施設と比較していくつかの特徴があります。
高圧施設では一般的に電力消費量が多いため、太陽光発電による電気代削減効果が大きいというメリットがあります。さらに電気料金の高騰リスクを軽減し、税制優遇措置により初期投資を抑えられる点も魅力といえるでしょう。
一方で導入コストが高くなりがちで、手続きも煩雑になるというデメリットがあります。ここでは、高圧施設に太陽光発電を設置する際のメリットとデメリットについてまとめました。
高圧施設に太陽光発電を導入する最大のメリットは、電気代の大幅な削減効果が期待できることです。高圧施設では、一般的に低圧施設に比べて電力消費量が多いため、太陽光発電による自家消費の効果がより大きくなります。
とくに日中に電力消費が多い施設では、太陽光発電の導入によって電力購入量を大幅に減らせるため、光熱費の削減につながりやすいです。また、高圧施設では低圧施設に比べて1kWあたりの設置コストが安くなる傾向にあるため、長期的な視点で見ると投資対効果が高くなります。
自家消費型太陽光発電は、高圧施設の経営にとって大きなメリットをもたらす技術といっても過言ではありません。電気代の削減は設備投資の回収を早めるほか、キャッシュフローの改善にも寄与します。
さらに、将来的な電力価格の上昇リスクをヘッジする効果も期待できます。
近年は電気料金の高騰が社会問題となっており、電力多消費型の高圧施設では電気料金の変動が経営に大きな影響を与えています。このような事態に有効なのが太陽光発電です。導入することで、電力会社からの購入量を減らせるほか、電気料金高騰の影響を緩和できます。
自家消費型太陽光発電は、エネルギーコストの安定化を実現できるだけでなく、経営リスクの軽減に役立ちます。また、電力の調達先を分散することで、特定の電力会社への依存度を下げられるというメリットを期待することが可能です。
電力の調達価格が上昇したとしても、自家消費分は固定価格で利用できるため、エネルギーコスト全体の上昇を抑えられます。さらに蓄電池と組み合わせることで、ピーク時の電力購入を減らし、基本料金の低減も可能です。
太陽光発電は電気料金高騰の影響を軽減できます。とくに高圧施設の電力コスト管理にとって、重要な役割を果たすシステムといえるでしょう。
高圧施設へ太陽光発電を導入するためには初期投資が必要です。しかし、現時点ではその負担を軽減できるさまざまな優遇税制が用意されています。
たとえば、中小企業が太陽光発電設備を導入する際には、中小企業経営強化税制を利用できる場合があります。この制度では、一定の要件を満たす設備に対して取得価額の全額を即時償却するか、もしくは税額控除を受けることが可能です。2024年も引き続き、この制度が適用される見込みです。
さらに、自家消費型太陽光発電で使用する電力分に関しては、再エネ賦課金徴収の非対象となるため、運用面でもメリットを得ることが可能です。加えて固定資産税の減免措置や、省エネルギー機器への投資に対する補助金なども活用できる場合があります。
これらの優遇措置を有効に利用することで、高圧施設への太陽光発電導入に伴うコストの負担を大幅に軽減できるでしょう。節税効果は太陽光発電の投資回収を早めるだけでなく、長期的な収益性を高める極めて重要なポイントと言えます。
高圧施設に太陽光発電を導入する際は、屋根や屋上に太陽光パネルを設置することで、建物の遮熱・断熱性能を向上させることが可能です。
太陽光パネルは日射を受けて発電すると同時に、太陽熱を吸収し建物内部への熱の侵入を防ぐ役割も果たします。パネルが日光を遮ることで夏場の屋根や屋上の温度上昇を抑え、室内への熱の流入を減らせるため、建物の冷房負荷が低減されるほか空調エネルギーの消費量を削減できます。
一方、冬場は太陽光パネルが断熱材の役割を果たし、屋根から熱が逃げないよう防ぐことが可能です。これにより、暖房効率の向上が期待できます。
太陽光発電による遮熱・断熱効果は、建物のエネルギー効率を高めるほか、光熱費の削減に貢献してくれるでしょう。さらに屋根や屋上の温度上昇を抑えることで、建材の劣化を防げるため、建物の長寿命化にもつなげられます。
太陽光発電システムは本来とは異なるメリットをもたらしてくれる可能性があります。建物の遮熱・断熱を検討している方も、検討する価値は十分にあるといえるでしょう。
近年、企業には脱炭素経営の実践が強く求められるようになりました。とくに大規模な高圧施設を持つ企業では、CO2排出量の削減が極めて重要な課題のひとつとなっています。
そんななか、高圧施設に太陽光発電を導入することは、脱炭素経営の推進に大きく貢献します。太陽光発電は再生可能エネルギーの代表格といっても過言ではありません。何より発電時にCO2を排出しない点が魅力であり、最大の特徴です。
高圧施設で太陽光発電を活用すれば、化石燃料由来の電力消費を大幅に削減できるほか、事業活動に伴うCO2排出量を抜本的に低減できます。
脱炭素経営は企業の環境責任を果たすだけでなく、企業価値の向上につなげることも可能です。環境に配慮した事業活動は、顧客や投資家からの評価を高めるだけでなく、ブランドイメージの向上や新たなビジネスチャンスを作り出せるでしょう。
さらに今後予想される炭素税の導入など、環境規制の強化に備える意味でも重要です。太陽光発電は高圧施設の脱炭素化を加速し、持続可能な経営の実現に貢献してくれるでしょう。
こちらの記事では、太陽光発電で創り出したエネルギーを自家消費する具体的な方法について解説しています。オール電化やエコキュート、蓄電池に関して詳しく取り上げているため、ぜひあわせてお役立てください。
高圧施設への太陽光発電の導入は、電気代の大幅な削減や電力コストの安定化をはじめ、脱炭素経営の推進など、多くのメリットがあります。一方で、初期投資の大きさや手続きの煩雑さなどのデメリットもあるため、導入する際は十分な検討が必要です。
また、自家消費型(非FIT)か余剰売電型(FIT)の選択、キュービクルの有無の確認、各種設備の適切な設置、実績のある業者の選定など、押さえるべきポイントは少なくありません。確かなプランを立てて適切に進行していくことで、太陽光発電のメリットを最大限に活かせるでしょう。
高圧施設における太陽光発電の導入は、長期的な視点に立った経営判断が求められます。再生可能エネルギーの活用は、企業の持続的成長と脱炭素社会の実現に欠かせない取り組みです。ぜひ自社の状況に合わせた導入計画を検討してみてください。
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